被相続人が特定の人に対して金銭債権を持っていた場合の相続はどのようになるのでしょうか?消費者金融などのカードローンや住宅ローンなど金融機関に対する債権ではなく特定の個人や法人を相手とした取引によって生じる債権について相続・遺言での取り扱いがどのようになるかを詳しく解説していきます。
債権の特定
金銭債権はお金の貸し借り(貸金債権)が一般的ですがこれ以外にも賃料債権や売買代金債権など様々なものがあります。まずはどのような契約があったのか、当事者や契約年月日を元に支払い期日や債権金額、貸金債権の場合は利息や損害金の定め、賃料債権や売買代金債権は対象となる目的物等によって債権を特定します。
金銭債権と法的な問題
債権の譲渡は譲渡人が債務者に対して通知をし、または債務者がそれを承諾しなければ債務者、その他第三者に対抗することはできません(民法461条に規定、民法2重で債権を譲渡してしまう可能性を防ぐための定められている)遺贈の場合には遺贈義務者の債務者に対する通知または債務者の承諾がなければ受遺者は遺贈による債権の取得を債務者に対抗できないとされています。
相続人は被相続人のすべての財産(プラスもマイナスも)の権利義務を承継します。遺贈義務は一時的に相続人が負います。また包括受遺者が決められている場合は、包括受遺者が遺贈義務者となります。遺言執行者がいる場合、遺言執行者が遺贈義務者となります。相続人が複数いる場合、協力を得られないと金銭債権の承継に支障をきたします。そうならないためにも遺言執行者を定めておいたほうがいいでしょう。
実務上の問題とトラブルになるケース
特定の人に対する貸金債権や売買代金債権は特に注意が必要です。そもそも家族・親族間の金銭の移転に関しては賃借なのか、贈与なのか、名義借りなのか曖昧になる部分も多くまずはそこが問題になることもあります。また貸金債権に関しては借主が弁済について争っていたり、そもそも資金がなく返済ができない場合もあります。売買代金債権においても、売買の目的物に欠陥があるなど反対給付についての問題が発生していることもあります。このようなケースでは相続財産として金銭債権が額面通りの価値があるかどうかが問題となります。
また被相続人の金銭債権が特定の相続人に対する債権であった場合、他の相続人がその特定の相続人に対して金銭債権を有することになり紛争が複雑化する恐れがあります。そもそも論にはなりますが、被相続人が生前に金銭債権が回収可能である場合、回収して現金化しておくことが一番のトラブル回避策となります。相手方と当事者で紛争が生じている場合、被相続人は極力解決しておくべきでしょう。少なくとも債務者と何かしらトラブルがある場合、交渉の経緯などを遺言とは別にメモし、詳細を相続人に残しておくべきです。
被相続人の相続人に対する債権がある場合は大変厄介です。こちらも可能な限り生前に解決しておくべきでしょう。特定の相続人に対して債務は免除する(俗にいう借金をチャラにする)代わりに他の相続人には他の財産を相続させることで金銭的な調整を遺言書によって取るなどすることも可能です。