生きているうちに遺産のことをはっきりさせておき安心して寿命を迎えたいと思う方も一定数いらっしゃるようです。そこで生前に遺産分割協議をした場合、法的にはどのような取り扱いになるのでしょうか?
今回は生前に遺産分割協議を行った場合について詳しくまとめました。
生前にした遺産分割の効力
前提として相続人や遺産は被相続人が亡くなって相続が開始されたときに初めて確定します。遺産分割協議や相続放棄は相続開始後の相続人の意思で行われるものなので当事者同士で合意をしていたとしても無効となります。
過去の判例を見ても相続制度の趣旨に反するため相続開始前の遺産分割協議の効力は認められませんでした。
追認について
一方で相続開始前の遺産分割は認められないものの、共同相続人が相続開始前の遺産分割協議を追認することは可能です。
追認とは取り消すことができる行為を取り消さないと決める行為です。言い換えれば取消権の放棄とも言えるでしょう。追認がなされると法的行為は有効となります。過去の判例で相続開始前の無効な遺産分割についても追認は認める判例を出しております。
追認は成年であり判断能力がしっかりしていないと行うことができません。簡単に言うと、脅迫された人が行った場合や成年被後見人などが行った場合は無効になります。
相続税申告について
遺産分割協議を生前に行うと当然相続税申告も同時に行うことになります。無効な遺産分割協議において提出した相続税申告はどうなるのでしょうか?
まず共同相続人が相続開始後に新たな遺産分割として相続開始前の遺産分割協議と全く同じ内容の遺産分割協議を成立させることは、各々が同意していれば当然可能です。相続開始前の無効な遺産分割協議書について相続開始後に各相続人が追認しても何の問題も生じません。
原則として相続税額に変更がなければそのままで問題ございません。一方分割の仕方や配分が変わった場合、修正申告もしくは更正の請求が必要です。収めるべき納税額が足りていない場合は、修正申告、納めるべき納税額が過剰な場合は更正の請求をすることになります。
遺留分の放棄
一部の法定相続人が最低限遺産としてもらう権利が遺留分です。遺留分は遺言よりも強く、主張すればそれが認められます。この遺留分についてですが、相続人になる予定の人があらかじめ被相続人の生存中に、遺留分放棄をすることは可能です。
相続放棄と遺言
また相続放棄に関しても同様で生前に行うことはできません。過去のケーススタディとして「生きている間に〇〇には相続放棄をしてほしい、その一筆を書いてまとめたい」と言うような事例もございましたが、これらは残念ながら法的には全て無効になってしまうのです。
もし、出来る限り当人が死後に揉めたくないのであれば、遺言を残すことも一つの手です。付言事項という形で揉めてほしくないなどメッセージを伝えることができます。遺留分以外の部分に関しては遺言が優先されるため、公正証書遺言を残すことでより希望通りの分配ができるようになるかと思います。