一般に相続というと現金、預貯金、不動産がよくあるものですが損害賠償請求権も相続財産の対象となります。今回その権利を法定相続分を超えた場合の対処について解説します。
実例
被相続人Aの長男Bと次男CはCが単独で第3者のXに対する損害賠償請求権を取得することで合意をしました。遺産分割協議書には単に損害賠償請求権を取得する旨と併せて「B及びCは、BがAのXに対する損害賠償請求権を取得したことについて、Xに対する通知を行うものとする」との条文を付け加えておく必要があります。※理由は後述
民法909条
-
第909条(遺産の分割の効力)遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
民法909条では遺産分割の効力は相続開始時に遡りますが、第三者の権利を侵害することはできないとされております。またこの第三者とは処分者の持分処分権の有無に関する善意悪意は問わないとされております。
単に遺産分割協議書に損害賠償請求権を取得すると記載しただけでは、損害賠償請求権を取得することとなりますが、法定相続分を超える部分は権利侵害となり、対抗することができません。
法定相続分を超える部分を第三者に対抗する方法
第899条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)
1.相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2.前項の権利が債権である場合において、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
単に損害賠償請求権を取得する旨が書かれた遺産分割協議書では法定相続分を超える部分の損害賠償請求権はXに対抗することができません。
そこで債権譲渡の対抗要件である共同相続人全員からXに対する通知もしくはXの承諾を得ることが必要になると考えられます。
遺産分割協議時点では第三者に対する対抗要件のことを考えて作成することは極めて稀です。
そのため実務上では遺産分割協議後にXに通知をすることになるのが通常です。しかし遺産分割協議書が成立した後は他の共同相続人の同意を取ることは結構難易度が上がります。Xが承諾しなければ対抗要件を備えることができなくなってしまいます。
近年の民法改正により2019年の7月以降に発生した相続については共同相続人の協力が得られない場合でも1人で通知できるようになりました。
なお実例において通知に関する条項を織り交ぜたのは、仮に協力を得られない場合でも遺産分割の内容を明らかにしてXにその承継を通知することにより法定相続分を超える権利についてもXに主張することができます。また通知する旨を忘れない意味も込めて遺産分割協議書に記載しておくことは大切です。