遺産分割協議をする際に、現金や不動産のみであれば、非常にわかりやすいですが、被相続人が生前に預貯金口座を大量に持っていた場合などは調査に非常に時間がかかるため、後回しにしたいと言ったケースがあります。
今回は一部のみを分割する遺産分割について詳しくまとめました。
遺産の一部分割
遺産分割協議については通常被相続人の遺産の全てを対象として行いますが、遺産の一部のみを対象とすることもできます。
令和の相続法改正前においても、法解釈でかかる遺産の一部分割は可能とされておりましたが、相続法改正により遺産の一部分割が可能であると明確になりました。(民法907条)
第907条(遺産の分割の協議又は審判等)
- 共同相続人は、次条第1項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第2項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
- 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
また遺産性について争いのある財産とない財産で分けて、ない財産だけでもさきに分割したい場合も、一部分割に相当します。
一部分割であることの明示
遺産分割協議書に一部分割であることを明記する義務はありません、しかし相続人当人にとってはどれくらいの財産があるか?と言った観点は非常に重要であります。相続人の一人が全ての財産の遺産分割と勘違いしてしまうケースもございます。その場合、民法95条を盾に遺産分割協議の取り消しの主張をされることも考えられます。
そのため実務的には一部分割である明記は必要です。また今回の一部分割の対象にならなかった財産の分割があるため、できる限り揉めないように先を見据えて協議書を作成することが重要です。相続の専門家に一任する方が、大きく揉めず着地できる可能性が高まります。
仮に一部分割であることを明記しなかった場合は別個独立に残余財産の分割を行うことを前提に遺産の一部分割をしたと解釈されることが通例です。
実例
被相続人には3人の子X,Y,Zがおり、現金600万円と不動産と預貯金があります。不動産は長男であるXが引き継ぐことになり、現金は等分することになりました。預貯金口座はたくさんあり、調査にかなりの時間がかかってしまうことが分かったため、取り急ぎ現金と不動産の分割をすることになりました。
この際、X,Y,Zは現金600万円のうち各々200万円ずつ取得する、Xが自宅不動産を取得するの2つでは不十分です。かならず残余財産についても明記しましょう。
例:第●条 本協議書において分割の対象としなかった残余財産においては残余財産に2600万円(第一条の現金600万円及び第二条の不動産の時価総額2000万円の合計額)を加えたものを遺産全体の評価額として本協議書による遺産分割と残余財産の遺産分割を通じてX,YおよびZの取得する財産の価額が、各々遺産全体の評価額の3分の1を乗じた金額と等しくなるようにしなければならない。